自分の中の感覚がふっと動いたとき。
何気ない風景や音が、なぜか胸に残ったとき。
その瞬間、人は何を感じ、どうやって表現しようとするのだろう。
アンビエントやチル、トリップホップなど、ジャンルをまたぎながら“感情の居場所”を音でつくる音楽家・kuramuさん。
家族と暮らす日常のなかで感じる静かな違和感、
音が生まれる瞬間のこと、そして音楽と向き合う時間のこと。
うまく言葉にならない感情と、どう向き合ってきたのか。
そのすべてを、「インスピレーション」というキーワードから探っていきます。
アンビエント・ミュージックが呼び起こす“聴こえない記憶”
インスピ編集部
今日はお時間ありがとうございます。まず初めに、現在の音楽活動についてお聞かせいただけますか?
kuramu
こちらこそ、ありがとうございます。私は「kuramu」として、主にアンビエント・ミュージックを制作しています。ジャンルとしてはチルアウトやトリップホップ寄りの音も多くて、“音に感情の余白をのせる”ことを大事にしています。日常のなかでふと立ち止まったときに感じるような、静かで、それでいてどこか切ない感覚を音で表現していけたらと思っています。
ふとした瞬間に、音が生まれる
インスピ編集部
音楽をつくろうと思うのは、どんなときなんですか?
kuramu
言葉にならない気持ちが湧いてきたときですね。
たとえば夜にひとりでぼーっとしているときとか、洗濯物が風に揺れてるのを見たときとか、「なんかこの感じ、音にしたいな」ってふと思う瞬間があって。
そのままPCの前に座って、音を探しはじめることが多いです。

アンビエントは「感情が居られる場所」を作ること
インスピ編集部
アンビエントというジャンルには、どんな魅力を感じていますか?
kuramu
アンビエントって、“時間の進み方”がちょっと変わる音楽だと思うんです。
日常のリズムから少し外れて、自分だけの感覚にゆっくり戻っていけるというか。
作っているときは、完成された“曲”を作ろうとしているというよりも、感情がしばらく座っていられる場所をつくっている感じ。
誰かの疲れがすっとほどけたり、理由のない不安が軽くなるような、そんな空間を音で整えている感覚が近いです。

偶然できた音が、過去の感情をそっと呼び起こす
インスピ編集部
ご自身の音で、逆にkuramuさんがハッとすることもありますか?
kuramu
ありますね。
音を重ねていく中で、偶然できたノイズや残響、意図していなかったメロディが、「あれ?これ、なんか懐かしい」って気持ちを呼び起こすことがあります。
それが、昔の記憶だったり、うまく言葉にできない感情だったり。
そういうとき、自分の中のセンサーがふっと反応して、「あ、この音を中心に組み立てたいな」と思ったりします。

音が響かない日は
インスピ編集部
インスピレーションが湧かない日もありますよね。そんなとき、どう過ごしていますか?
kuramu
あります、よくあります。
そういうときは、聴こえてるはずの音がただ流れていくだけで、自分の中に入ってこない感覚になります。
無理に何かを作ろうとするとしんどくなってしまうので、一度離れます。
コンビニまで何も考えずに歩いてみたり、お湯を沸かしてお茶を飲んでみたり、あえて“なんでもないこと”をするんです。
すると、ふとした瞬間に「この感じ、音にしてみたいな」と思えるタイミングが戻ってくることがあります。

誰かの記憶とつながる音になれたら
インスピ編集部
聴いてくれる人に、どんなふうに届いたらうれしいですか?
kuramu
「あ、なんか懐かしい」とか、「この感じ、昔のあのときと似てる」って思ってもらえたらうれしいです。
音って、言葉よりもやわらかく感情に触れる力があると思うんです。
もし誰かの記憶とリンクして、何かが静かにほどけるような時間になれたら、それだけで充分です。

今、誰かに渡したい一言
インスピ編集部
では最後に、今この瞬間、誰かに届けたい言葉をお願いします。
kuramu
焦ったり、自分の感覚に自信が持てなくなることってあると思うんですけど、それって自然なことだと思います。
感性って、ずっと開いてるわけじゃなくて、ときどき眠ったり、深く潜ったりもするものなので。
そんなときは、無理に引き出そうとせずに、そっと待ってあげるのも大事かなって思います。
✍️ 編集後記:
“聴く”とは、外の音に耳を澄ますことではなく、自分の内側に降りていくことなのかもしれない。
kuramuさんの音楽には、そんな静かな問いかけが込められているように感じました。
言葉では伝えきれない感情の深さを、音でそっと触れるような表現。
それはきっと、忙しい日々の中で忘れかけていた感覚を、ふと呼び起こしてくれるはずです。